図書館員の本箱 再開第10回
更新日:2020年12月31日
『答えが見つかるまで考え抜く技術』
サンマーク出版
2003.4
『八月の犬は二度吠える』
講談社
2011.1
「あなたの思考に影響を与えた人は誰ですか?」と私自身に問いかけたとき、一人の人をまっさきに思い浮かべます。その人の著書を紹介します。
私は高校を卒業すると、そのまま京都の寮に入り、大学受験に向けて予備校生活を開始しました。寮の名前は、西賀茂至誠寮。作家・演出家の鴻上尚史氏が、著書の『八月の犬は二度吠える』の冒頭部分で、この西賀茂至誠寮での寮生活を描写しています。著者は、私より数年前に入寮されていて、その頃の経験に基づいて書かれています。入寮から退寮まで、私の経験と重なることがとても多く、非常に懐かしく読むことができました。本当にあの頃はバカなことばかりしていたと、恥ずかしくなります。
さて、予備校生活というものは、鴻上氏の言葉を少々借りると「ただ、勉強だけをすればいい。それだけが求められていて、それだけを自分は求め」、「勉強という名の暗記作業」の繰り返し。そんな日常の中で、英語を受け持っていた表三郎(おもてさぶろう)氏の授業は、単調な受験のための勉強とはまったく異なるものでした。
授業時間のうち、雑談が8割以上で、残りが英語。
予備校の名物教師であった表氏から、授業を通じて考えることの大切さを伝えられたと思っています。高校の授業で叩き込まれた単語と構文の知識だけで英文を訳す方法ではなく、英文に書かれた思いや背景を考えることが大切とし(行間を読む、とよくおっしゃられていました)、直訳ではなく意訳を推奨されていました。考えるにあたっては、様々な教養が材料として必要。そこで授業の8割を、哲学、政治経済、芸術、時事などの多岐にわたる話題とそれに関する自分の考え方を伝える、雑談の時間として費やしていたのでしょう。

予備校を卒業してだいぶ年月が経って、ふとしたことから表氏が著作を出されていることを知りました。『答えが見つかるまで考え抜く技術』という本です。
「この本を読んでも、頭がよくなるわけでもなく、論理力が身につくわけでもない」と冒頭に書かれています。「問い」を持つことが人生において大切であること、「問い」に対する答えが見つからなければ「問いのプール」にいったん入れておくことが、最初に書かれています。そして「答え」にたどり着くまでのアドバイスが、短い文章でわかりやすく書かれている本です。
これまで、さまざまなことに「問い」を持ってきたとは思います。しかし、書かれていることを何一つ実践できているわけでもなく、考え抜いていない自分に気づいて手に取るたびに赤面する思いです。
「考える」という言葉が頭に浮かぶと手に取っている本です。今年のマイベストですが、去年も来年もマイベストの一冊です。来年は、ひとつでも実践できていればいいな、と改めて願っています。(К)