コンテンツにジャンプ

トップページ > 図書館員の本箱 > 大人向け > 図書館員の本箱 再開第1回

図書館員の本箱 再開第1回

更新日:2020年12月22日

『のどがかわいた』

大阿久佳乃/著

岬書店

2020.3

『持続可能な魂の利用』

松田青子/著

中央公論新社

2020.5

『日本の戦争映画(文春新書)』

春日太一/著

文芸春秋

2020.7

マイ・ベストと言っているのに、1冊に絞れず3冊ご紹介させていただきます。この後、選んでいいのは3冊までルールを申し送りいたします。

『のどがかわいた』は、佇まいから素敵です。サイズ、表紙の色、1ページ内の文字と余白のバランス。手に取ってページをめくり、本棚において置きたくなる「本」です。

著者は、三重県在住の19歳。小説などと比べて詩を読む人が少ないため、詩の扉を開くきっかけになってもらえれば、とフリーペーパー『詩ぃちゃん』を17歳から発行。この本では、『詩ぃちゃん』に掲載した文章のほか、本、地元、学校、家族、自分について、彼女が感じ考えたことを言葉で丁寧につづっています。

「のどのかわきを感じているのはひとりきり」「私自身が「寂しさ」を限りなく個人的なものだと考えているせいだ。「ひとの寂しさ」ではなく「私の寂しさ」だ、と言いたくなってしまう。」

私とは、世代も住む場所も学校も家庭環境も違うのに、響きました。巻末の一文は、「少女」という妄想的言葉が自分に降りかかってくることへの気持ち悪さ、についてでした。

『持続可能な魂の利用』は、たまたま次に読んだ小説ですが、冒頭で「おじさん」から少女たちが見えなくなった世界が現れました。(本を読んでいると、時々そのようなリンクがありますよね!)

そして、学校の制服をベースにしていながら軍服を彷彿とさせる分厚い生地の衣装で、笑顔を見せず、社会の生きにくさや同調圧力への抗いを謳う少女アイドルグループ「××」をつうじた世界の考察が始まりました!

SDGs(持続可能な開発目標)がトレンドですが、「魂」を擦り減らさずに生きていくことは切実です。読後、欅坂46の動画を見まくり、ベストアルバムを買ってしまいました。

『日本の戦争映画』は、戦後に日本で作られた戦争映画を対象に、映画製作者たちがどのように戦争と向き合い、どう描いてきたか、の変遷を検証したものです。

戦後しばらくの間、監督・脚本・俳優たちが戦争経験者であるのはもちろん、軍隊経験者も多く、元特攻隊員として生き残った人もいたことを、あらためて知りました。生き延びることを描き続けた元特攻隊員の脚本家や、軍隊での死の恐怖から逃れるために全てを喜劇に見立てるクセがついた監督。

2020年は戦後75年。映画製作者から戦争経験者がいなくなり、戦争映画も変化しているとのこと。この本を読み終わったのは、8月15日でした。(I)