トワイライト・シャッフル
更新日:2020年5月28日
『トワイライト・シャッフル』
新潮社
2014.6

海辺の街で、ひとり暮らす早苗の夫は、4年前に失踪している。このように書くと、不幸なイメージを持たれてしまうかも知れないが、読み進めるうち、早苗がうらやましくなってくる。
早苗は、一週間の勤めを終えると、勤務先のスーパーで、ジンと食料を買い、一日半の休日を読書して過ごす。安楽椅子に腰かけ、ビア・ジン・コークを片手に。労働と休息。読書を中心に据えた生活のリズム。失踪した夫が連絡してきたとき、早苗の冷静なふるまいを支えたのは本だった。(「ビア・ジン・コーク」)
海辺の街の出来事を綴った13篇。当たり前だが、様々な境遇の人がいる。本を開いて自分ではない誰かになって生きて、本を閉じてまた自分に戻る。いく通りもの人生を体験できるのが小説の楽しみのひとつと改めて感じ入る。(H)
※書影...乙川優三郎『トワイライト・シャッフル』(新潮文庫刊)