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かけがえのない、大したことのない私

更新日:2020年5月21日

『かけがえのない、大したことのない私』

田中美津/著

インパクト出版会

2005.10

何十年も生きて、たくさんの本を読んできました。推しの1冊は、その時の状況や自分の心持ちで変わりますが、推し「タイトル」は、15年間この本で変わりません。
田中美津さんは、1943年生まれ。現在、鍼灸院を主宰。1970年代に産声を上げた日本のウーマン・リブ運動を代表する一人。イメージの中の「どこにもいない女(自分)」からの解放を宣言した彼女の生きるコンセプトが「かけがえのない、大したことのない私を生きる」。
彼女の最初の本である『いのちの女たちへ‐とり乱しウーマン・リブ論』(田畑書店 1972年、図書館所蔵は パンドラ 2010.5)を読んだ時、私は21歳。「私」であることの不安定さに惑っていた頃でした。このタイトルもいいです。「とり乱し」です。あっちも私、こっちも私。今ここにいる私を生きることの肯定です。彼女はこの後、運動がなんとなく強制してくる清く正しく美しく的なものにつらさを感じ、1975年の国際婦人世界会議をきっかけにメキシコに渡って4年半暮らし、帰国後に鍼灸師になります。からだに聴いて、心を癒すことを生業にします。
彼女の本を読むと、言葉が身体から発せられていることを感じます。言葉に生々しさがあります。他の本のタイトルもいいんです。
『この星は、私の星じゃない』(岩波書店 2019.5)は、子どもの頃に世界が壊れるような体験をした彼女が、生きるために呟いてきた言葉。2019年に公開された彼女のドキュメンタリー映画のタイトルでもありました。
『明日は生きてないかもしれない...という自由』(インパクト出版会 2019.11)は、76歳の彼女の言葉。私たちはみな「たまたまな自分」を生きている。そして、今生きているということが総て。自由とは、「自分以外の何者にもなりたくない」という思い。
信仰心のない私ですが、言霊だけは信じています。自分の呟く言葉が、自分を支えることを知っています。目にした本のタイトルだけでも、影響を受けることがある気がします。たくさんの本、たくさんのタイトルの中で、何に目を留めるか、それが私なのだと思います。(I)