ら抜きの殺意
更新日:2020年5月19日
『ら抜きの殺意』
而立書房
1998.2
今回ご紹介する「ら抜きの殺意」は1997年テテアトル・エコーの初演、同名舞台の戯曲で第1回鶴屋南北戯曲賞を受賞しています。
物語の舞台はいかにもブラック企業!な通信販売会社「ウェルネス堀田」の倉庫兼事務所。夜間のテレホンアポインター募集のチラシを受け取りこの会社にやってきた海老名俊彦。そこで待ち受けたスーパーバイザーの伴篤男。この二人の熾烈な「ら抜き言葉対決」を軸に、二人を取り巻くそれはそれは個性豊かな濃ゆい登場人物たちもからみ、尊敬語、謙譲語の誤用や日本語特有の曖昧な表現、女言葉の煩わしさ、方言など、言葉についてのあれこれがテンポのよいセリフの中に散りばめられ物語は進んでいきます。
宿敵同士の「ら抜き言葉対決」もとても面白いのですが、伴の恋人、普段からやったら丁寧な言葉遣いをしている遠部その子の爆発ぶりもたまりません。三つの携帯電話が次々となり、上司、恋人、友人それぞれに応対するその子。恋人への不満を「ボコるぞてめえ!って感じ」と友人からの電話にぶちまけたつもりが、実は恋人からの電話だった・・・という展開は何度読んでも笑えます。そんなその子の様子を陰で見ていた社長の妻、堀田八重子もまたいい味を出しています。
戯曲を読むもう一つの楽しみは、この役をどんな俳優が演じたらしっくりくるか妄想すること。私が役者なら、堀田八重子、演りたいです。
実はこの舞台、どうやら私は生ではなくテレビの劇場中継で観たようです。「どうやら」と曖昧なのは最近記憶に自信がないこともそうなのですが、この戯曲を読み返すと目の前で舞台が立ち上がってきて、あの場所にいたような気がするという臨場感を味わえるからなのかもしれません。ちなみに今回ネットでDVDが販売されていないか探したらありました。なんと○万円!
戯曲を読んで脳内再生することにします、今後も。
1997年作ということで、若い人たちには???と思うような当時の流行り言葉も出てきますが、それもまた言葉のウツロイを感じさせるものだと思います。
早く大好きな生の舞台が観れる日が、、、おっと、観られる日が来ることを願っています。(S)