クローバー・レイン
更新日:2020年5月18日
『クローバー・レイン』
ポプラ社
2012.6

この本に出会えてよかった。本を閉じた時、心にそっと灯りがともるような、暖かな幸福感に包まれました。この本に登場する「シロツメクサの頃」を読んだ人たちも、きっとそんな気持ちになったのではないか、そう思います。
主人公は大手出版社に勤める若手編集者の工藤。彼が未発表の「シロツメクサの頃」の原稿に出会うところから物語は始まります。一読するなり、作品に惚れ込んだ彼は、自分の手で世に送り出したいと思いますが、様々な壁が彼の前に立ちはだかります...。それでもこの本をどうしても出したい、読んでもらいたいと、普段は何事もそつなくこなす彼が、ひたむきに奮闘する姿に周囲の心も次第に動かされていきます。一冊の本が生み出されてから、読者の手に届くまでの物語です。きっと読み終える頃には、あなたも「シロツメクサの頃」を読んでみたくなるはずです。(それは叶いませんが...私はぜひ読んでみたいです。)作家、編集者、営業、書店員...本に関わる人たちの苦悩や、一冊の本にかける情熱や想いがひしひしと伝わってきます。想いだけではどうすることもできないもどかしさ、壁を打ち破ることができるだけの力が足りない自身の未熟さや不甲斐なさ、知らず知らずのうちに身についてしまった驕り... 自分にも思い至る部分があり、刺さるものがあります。そして同時に、私も彼らのように、自分が手掛けていることに自信と誇りを持てるように、誠心誠意取り組もう、そう身が引き締まり、前向きな気持ちになります。
本作では、工藤の想いが実り、「シロツメクサの頃」は無事に多くの人の元に届くのですが、実際はもっと厳しい世界なのかもしれません。でもだからこそ、自分の元に届いてくれたことへの感謝を込めて、そんな想いの詰まったものを、良いと感じたものを良い、好きなものを好きだと伝えることで、誰かの手に届けるお手伝いができたらと思います。(T)