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大坊珈琲店

更新日:2020年5月14日

『大坊珈琲店』

大坊勝次/著

誠文堂新光社

2014.7

『大坊珈琲店』の書影

喫茶店めぐりが趣味で、行ったお店をカメラで撮影し、感想とともに記録してきました。「平成7年10月14日と16日 うえき鉢みたいなカフェオレボールに入っているゴロンとした氷入り ジャズが流れていました。トイレにはいった珈琲豆。よかった。マッチある。-中略-とても居心地がいいです。窓が木枠。豆を地方発送している。ザルにこげた豆をころがしていた」とあります。このお店、大坊珈琲店は2013年にビルの取り壊しのため閉店しました。

大坊珈琲店のマニュアル、店内に足を踏み入れたかのように感じられる写真。お店に通った方35人の寄稿からなるこの本は、開けばあのお店に身を置いたかのように感じられる一冊です。

大坊珈琲店のマニュアルは「自分の場合はこうでした」という語りで一貫しています。自由を感じます。そしてマニュアルと称されているけれども、来店した方との思い出が多くを占めている。大坊さんが来店者ひとりひとりをとても大切に思っていて、忘れずにいたいと感じているのではないかと思いました。

沖本奈津美さんという方の寄稿が心に残りました。長いですが、一部を引用します。
「学生の頃、アルバイトの問い合わせをしたことがある。その時には募集はなく、いずれまた......ということで住所を置いて帰った。しばらくして、というか数年してから「アルバイトを募集しております」というお手紙をいただいた。あいにく私はすでに社会人になっていたので面接に応募することはなかったが、その封書をしばらく大切にしまっておいた。電話でもなくメールでもなく、万年筆で丁寧に書かれたお手紙というのに驚いたこともあったし、何年も前に問い合わせた人間に縁をつないで下さろうとしたことに感激したのだった。こういう人になりたいなぁ、と思ったことを今でも覚えている。-後略-」

ずっと足が遠のいていましたが、新聞で閉店することを知り、最後にもう一度と思い立ち、電車を乗り継ぎ表参道へ向かいました。(H)