風が強く吹いている
更新日:2020年5月12日
『風が強く吹いている』
新潮社
2006.9

タイトルを聞くとふっと読んだときのイメージが湧く本ってありますよね。私にとってこの本は、そんな本のなかの1冊です。
物語は、高校時代の事件をきっかけに陸上競技から離れていた主人公が、足を故障してしまった元強豪校のランナー、灰二(ハイジ)と出会ったことからはじまります。主人公は、その走りに魅せられた灰二に誘われ、格安学生寮に身を寄せることになります。同じ屋根の下にはそれぞれの大学生活を自由に謳歌する者たち。灰二は走ることに興味などない彼らと、「走る」ことをやめていた主人公を巧みに、そして強引に誘導し、本気で箱根駅伝を目指すという目標に巻き込んでいきます。
素人で個性豊かな面々がそれぞれの想いを胸に、スタンスの違いから衝突をしながらも「走り」に向かいあい、箱根駅伝に出場資格を得るべく練習そして記録会に臨み、そして――。
中学生のときに読んだきりでしたが、「走る」描写で、電柱や雲が通り過ぎていく景色が頭に浮かび、不思議と風を切る音、単調にリズムを刻む足音、そして息切れの音が聞こえるようで、のめりこむように読み進めたのは記憶にのこっています。文章から「風」を感じた、そんな作品です。
漫画、舞台、実写映画、アニメと様々なメディアで展開された作品なので、知っている人は多いかもしれません。それでも原作が未読なのであれば、ぜひ読んでもらいたい作品です。(M)