鉄筆とビラ ―「立高紛争」の記録1969-1970
更新日:2020年5月11日
『鉄筆とビラ ―「立高紛争」の記録1969-1970』
同時代社
2020.3

本書は、都立立川高校における、1969年10月のバリケード封鎖から1970年3月までの「紛争」の記録を忠実に掘り起こし、50年を経た今、その意味について考えようと、渦中にいた元生徒たちが出版したものである。
記録は、バリスト派(バリスト=バリケードストライキ)やそれに反対する生徒のビラや、学校が発行した文書を時系列に並べ、生徒の当時のコメントもはさみ、「予断も偏見もなく「ありのままに」当時を再現する」ことを念頭に作られている。
これを読むと、社会や教育の体制に反発し、体制に組み込まれるために勉学する自己を否定しろと、バリケードを張って、時には暴力で訴えるバリスト派と、初めのうちは突然何が起こったのか理解に苦しんだが、だんだん、バリスト派が民主的に話し合いをしようと言っておきながら、自分たちの考えに反対する声には耳を貸さず蔑もうとする非民主的な言動への違和感や、授業を妨害されて学ぶ権利が侵されていることへの疑問などから、バリスト派と対峙していく生徒たち、それに真摯に生徒と向き合おうとする教職員たちが浮かび上がってくる。そして、バリスト派の呼びかけ(良くも悪くも)が契機となって、それ以外の生徒たちと教職員は授業の改革を検討し、3月には講座制(自由選択科目)を取り入れることが実現している。
今でもその時のビラ類を大切に持ち続けている元生徒も少なくないそうだが、ほとんど発行日が記されていないビラを時系列にできたのは、一人の生徒が、当時リアルタイムで日付ごとに資料を整理しコメントも書いていたからだそうだ。学校内で入手するビラだけでなく、関連する新聞記事や、学校が保護者に送った手紙や電報まで取っておいたそうで、その先見の明には驚く。しかも高校生で。その渦中にいると、記録する(価値がある)ことに思い至らないことがあり勝ちだからだ。
今、この本が出版できて本当に良かったと思う。そうでなければ大切に取っておいた資料も日の目を見ることも無かったろう。当事者の記憶も薄れていくだろう。この事実を関係者以外が知ることも無かったろう。
渦中にあった生徒たち(バリスト派ではない)の当時の熱い日々もさることながら、50年を経た今、本にするために集まって議論する日々も相当熱く有意義だったことと想像し、とても羨ましく思った。