旅行鞄にはなびら
更新日:2020年5月4日
『旅行鞄にはなびら』
文藝春秋
2005.7

旅行記が大好きです。本当は自分が旅をしたいのですが、時間もお金も旅に出る知恵も無く、代わりに旅をさせてくれる旅行記を読むと心が解放されていくのを感じます。
著者の伊集院静さんはこの本の中で、"自分は紀行作家ではなく、別の目的で訪れた余白の時間で出会ったものを書いてきた"と述べておられます。私も伊集院静さんに旅のイメージが無かったのですが、たまたま見つけてタイトルに心惹かれ手に取りました。
前述した別の目的とは絵画をめぐるというものなので、絵画についても、また画家についても様々な記述があり、特にゴッホについては浸透している狂気のイメージとは異なった人物像がとても興味深かったです。
でも私の一番のおすすめポイントは風景や情景描写の美しさです。部屋にいても、トレドの丘から見下ろす街の光や、プロヴァンスの秋の日の夕日に染まるうろこ雲や、パリの夏の心地良い風の音や花の香りまでもが感じられ、別世界へと旅立てる気がするのです。
文章の随所に著者の思いが語られるとき、苦しみの中に見出す希望のようなものが感じられ、何となくほっとしながら読みました。
何度読み返しても面白いと思います。旅や絵画や花好きな方には特におすすめです。(K)