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『罪と罰』を読まない

更新日:2020年4月30日

『『罪と罰』を読まない』

本佐知子、三浦しをん、吉田篤弘、吉田浩美/著

文芸春秋

2015.12

文豪ドストエフスキーによる世界的名作『罪と罰』をお読みになったことはありますか?私はあります。でも、内容を語ってみろと言われますと、かなりうろうろです。

舞台はロシア。男(たしかラスコーリニコフ)は金を奪うために金貸しの老婆を殺す...男はその前に自分の行為を正当化するような理屈をあれこれ考えていた...しょせん犯罪も発覚しなければ「罰」にはいたらない...訳ありだけれど心清らかなソーニャに魂が救済され...そもそも人間にとって「罪」とはなにか...

しっかり読んだはずなのに、語れる内容は、世界名作ガイドであらすじを読んだだけの方に負けそうなことに愕然とします。(なお、魂の救済部分がどうも気に入らなかったことは覚えています。)

しかし、これは私だけの問題ではありません。おそらく全世界的な問題です。このこと、すなわち「読んだことはあるけれど、よく覚えてない人」と「読んだことはないけれど、なんとなく知っている人」の認識に大した差がない問題に注目し、読まずに読書会を開く、という試みがなされました。挑んだ4人は、小説・エッセイの執筆や翻訳、本の装丁などを職業とする本に関わるプロ、そして「読んでいない人」たちです。ちなみに、資料として冒頭と結末の各1ページのみが配布され、「読んだ」1人(出版社の方)が立会いを行っています。

想像力を駆使した読書会が進行するとともに、だんだん私の記憶もよみがえってきました。そうそう!と読んでいない人たちと共感してしまいます。そして、4人は読書会をつうじて『罪と罰』読んでみたくなり、各自読後に再度読書会を行い、これは傑作だとの結論にいたります。読まずにきた甲斐があったと。

なんて楽しい試みでしょう!

私は、これを自分もやってみたくてたまらなくなりました。だいたいのメンバーと読む本を決めました。図書館職員数人で村上春樹の小説を読まずに読書会。立会人のハルキストも決まっています。なかなか時間がとれずに今にいたりますが、このために私は村上春樹を読まずにいるのです。(I)