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サティさんはかわりもの

更新日:2020年4月28日

『サティさんはかわりもの』

M.T.アンダーソン/文 ペトラ・マザーズ/絵 今江 祥智/

BL出版

2004.9

まず、ジムノペティ第1番という曲をお聴きください。極めてゆっくりと手足を動かしながら、宗教的儀式を行っているような雰囲気、いっさいの感情が入っておらず、絶望感すら感じてしまうピアノ曲。それでいて、とても美しい旋律。

私は、ジムノペティ第1番の演奏時間が3分30秒以上であることにこだわっています。演奏がゆっくりであるほうが、ひとつひとつの音と音に間が長くなり、その余韻がとても心地よく聴こえます。名演といわれる演奏でも時間が短いと、あわただしく感じますし、音と音の間の余韻が感じられなくなります。3分以内の演奏時間などとんでもない、やはり長めの演奏時間にこだわります。

ナクソス・ミュージック・ライブラリー(外部サイトにリンクします) を利用してお聴きください。多くの演奏家による演奏を聴くことができます。この文を書くにあたって、ナクソスで演奏をいろいろ聴いてみました。中でもアレッサンドロ・デリャヴァン演奏の「サティ:ピアノ作品集」に収録されているジムノペティ第1番は、鍵盤を叩くタッチが優しく、演奏時間も3分56秒でゆったりとした雰囲気です。

さて、本の紹介です。紹介するのは『サティさんはかわりもの』」、ジムノペティ第1番を作曲したエリック・サティの生涯を描いた絵本です。サティの数々のエピソードが描かれています。そのエピソードから連想するサティのイメージは、タイトルのとおり「かわりもの」。そして「変人」「嫌われ者」「ひねくれ者」「癇癪もち」「異端者」「風変り」「偏屈」「目立ちたがり屋」等々。

芸術は、それを生み出した人の魂そのものだと考えています。物事の感じ方だけでなく、考え方、生き方など、その人のあらゆるものが凝縮したものです。そう考えると、なぜ「かわりもの」のサティが、ジムノペティをはじめ、数々の美しい曲をつくれたのか?という疑問が生じます。この本には、「新しい音楽をうみだしたい」と彼が生涯をかけて望み続けたことが書かれています。果たしてそれだけなのでしょうか。

奇行の一方で、サティが何を感じ、何を考え、本当に望んだものは何なのか、それは絵本からは読み解けないし、彼が遺した言葉からも読み解くことはできません。ジムノペティ、グノシェンヌ、サティが遺した曲を聴きながら、サティがどういう人物だったか、想像を巡らせてみませんか。(K)