そこにシワがあるから~エクストリーム・アイロニング奮闘記~
更新日:2020年4月25日
『そこにシワがあるから~エクストリーム・アイロニング奮闘記~』
早川書房
2008.10
世の中には、他人から見ればバカバカしい、くだらないと思うことをとても一所懸命やる人がいます。またそういうところが魅力的に映ったりすることもあったりなんかして。
村西とおるは言いました。「あのね、真剣に生きている人間の姿は端から見るとおかしいもんだよ」。この本の著者もそんな「おかしい」人なのかもしれません。
もう本のタイトルからして登山家マロリーの名言パクってグッときます。「エクストリーム・アイロニング」つったってなによ、って感じでしょうが、アウトドアの極限状態でアイロンを掛ける超マイナースポーツのことで、アイロン、アイロン台、発電機(「キーピング」も?)を背負って山へ行き、景色のいいところでシャツなんぞにアイロンを掛ける。すると、「...日常的にアイロン掛けをしている者は高いレベルの達成感や癒しを感じることができ」るんだって。ホントかよ!とソッコーツッコミ入れながら笑う。時に、「...抒情的な気持ちでアイロン掛けがしたくても、その強烈な(発電機の)エンジン音によってその気持ちが削がれてしまうことが多い。」...アイロン掛けって「抒情的な気持ち」でするか?しかも山の上で。
「アイロン掛けを格好悪いなどと思うなかれ。これは家事ではない。スポーツなのである。」と自信を持って言い放ち、日々訓練(どんな?)を重ね、オリンピック競技にしたいと本気で取り組んでいる。「各種スポーツにいそしむものたちは、スポーツ店に出向いて新製品などをチェックするのが常だろう。しかし、我々エクストリーム・アイロニストはスポーツ店を素通りし、家電量販店に向かう。(略)いつの日かスポーツ店の一角にアイロンとアイロン台が並ぶ日が来ることを、僕は願ってやまない。」エモい!そしてくだらない!いや、ホメてんですよ。山の上でアイロン掛けしている写真がまた、輪をかけてバカっぽいのもいい。ギアの紹介にも力を入れているし、アイロン台を欲しくなる人もいるだろう。多分。
なにがすごいって、こんなくだらない(失礼!)ことやっている人がこの人以外にもいて、競技会も開かれているってことにも驚きます(仲間って素晴らしい!)。そして、「...きっと僕のエアリアル・アイロニング中の繊細なテクニックを評価できる審判がいない」ことなんかを本気で心配していたりする滑稽さといったら、もうたまりません!
真剣に、常に全力で打ち込んでいるからこそ、そこにはユーモアが成り立つ。それって、プロ野球の珍プレー・好プレーみたいなものかな。
著者は言う。「誰かにスポーツとしてのエクストリーム・アイロニングを認めてもらいたいという気持ちはもちろんある。しかし僕はただアイロン掛けが好きで、アウトドアスポーツが好きで、そしてそれらをミックスさせたら思いのほか楽しかったので、今も変わらずエクストリーム・アイロニングを続けているのだ。ただ楽しいからやる。けっきょく、それに尽きるのだ。」晴れやかになる、読んでいて楽しい本でした。
五月晴れの休みの日、外でシャツにアイロン掛けをしたら気持ちいいかも。...って、そのうち庭では満足できなくなって、発電機背負って山に登ったりして!こわっ!(U)