ポースケ
更新日:2020年4月23日
『ポースケ』
中央公論新社
2018.1

利用者の方から「何か面白い本を紹介してほしい」と声をかけられることがあります。
ご自分で選ぶと、似たような本ばかりを選んでしまうからとのこと。自分が好きな本を紹介できるチャンスです。そのような場面で、最近では、必ず思いつくのが津村記久子さんの本です。
とくに『ポースケ』がいい。奈良にあるヨシカのカフェ「ハタナカ」に訪れる人たちの物語。有能であるために職場で無視されたり、娘のうまくいかない就職活動を見守ったり、歩行中にも睡魔に襲われ、道端で眠ってしまうような睡眠障害を抱える人もいます。
この作品の登場人物は、自分が善人だと気づかない善人ばかりです。それぞれが、ただ淡々と自分の目前の出来事を受け止め、悩みながら工夫して片付けていく。その誠実さが他人をそっと助けているような人間関係。そこが好きです。特に好きな登場人物は大学図書館の司書、ぼんちゃんです。見た目は中学生の32歳。ぼんちゃんは彼女から、職場でちゃんとやれているだろうかと心配されるほどのおっとりした人ですが、タイトルにもなっているカフェ主催の「ポースケ」というイベントで、読者にだけそのかっこよさが伝わる場面があり、ぐっときます。
自分が面白いと感じた本を利用者の方へお渡しするとき、その本について語るのを一言二言にとどめています。その方がどのようにお感じになるかを邪魔してしまうからです。ですが、今日は、おさえずに書きました。
ところで、最近になって、この本について新たな発見をしたのですが、カフェの名前が「ハナタカ」ではなく、「ハタナカ」でした。そう思い違いをしていた方は、他にもいらっしゃるのではないでしょうか。図書館でまちかどで、一日でも早く再び利用者の方と対話できることを願っています。(H)