図書館員の本箱 ひろば2026年5月号
更新日:2026年5月1日
『山のトムさん』
トムさんです。「猫のトムさん」でもなく、「わたしのトムさん」でもなく、「山のトムさん」です。「山」とは、主人公の家族が戦後開墾のために住んだ北国の山であり、雄大で素敵な自然……ではなく、毎日生活と対峙して力いっぱい働かなければならないところ。しかも先住民として住んでいたネズミ達に人間がとことんやられたため、家族皆が猫嫌いだったにもかかわらず(餌代もかかるし)、ネズミ捕りという責務をもってもらわれてきたのがトムでした。家に来て間もなくおなかをこわし、長い間下痢をして布団や部屋を汚してもなかなかお医者に行けません(お金もかかるし)。おかあさんの世話も限界を超え、山に置いてこようかと誰かが囁いたこともありました。元気になってからは人間のおばさんに狩りを仕込まれ、トムは素晴らしい狩人に成長して野山を縦横無尽に走り回りました。トムは狩る、狩る!なぜあんなに狩るのでしょう、昔我が家で飼っていた猫も、バッタセミ、トカゲカナヘビ、鳩やら鶉やら、雀はバキバキ音をたてて食べていました。何のうしろめたさも持たず、畏れ多いようなその力を開花させ、自然のままに狩る姿を、自然そのものであるトムを家族皆が心から愛したのでした。なお、この本の初版は1957年、トムは実在した猫です。作者の実体験が生き生きと描かれ、わくわくしながら読みました。(Y)
