図書館員の本箱 ひろば2023年9月号
更新日:2023年9月13日
『甘夏とオリオン』
KADOKAWA
2019年12月
上方落語家として世に出たばかりの主人公の高座名は桂甘夏。「甘夏」は師匠が、自分の弟子につけたかった名前のようです。そして「オリオン」は冬の星座・オリオン座。小説の大切な場面にでてくるので、要チェックです。物語は師匠が失踪したところからはじまります。甘夏と二人の兄弟子は一門を守るべく、そして師匠がいつでも帰って来やすいようにと、銭湯で深夜に、月一回の寄席をはじめます。
師匠は?甘夏の一門の命運は??この小説の魅力は、甘夏が女流落語家として目の前のさまざまな壁をこえて成長する様子が、兄弟子や個性的な周囲の人たちとの関わりとともにしっかり描かれているところ、そして、甘夏の記憶の中の師匠の言葉や振る舞いが、読み進むほどに重みを増してくるあたりにあると思います。
それから、実際の落語の演目がちょっとした解説つきで次々と登場するところも見逃せません。これから落語を楽しんでみたい人にもおすすめです。(S)