"やあ、こんにちは。僕のお手伝いをしてもらおうじゃないか"
そう言って、図書館の魔女は現れた。
妹の付き添いで図書館へ行くことになった。まったく、ツイてない、こんな寒い日に出掛けるなんて、正直感覚狂ってるだろう。妹は元気よく走っているけどこっちはのんびり行かせてもらうよ。にしても寒いな、まじで。これは早く建物に入るべきでは?前言撤回、急いで図書館に行くぞ。
などと、考えながら早足で歩いていたら、妹に追いついたので一緒に歩いていく。
・・・・・・
よし、着いた。あったかぁ......くない。何だこの微妙な温度設定。期待して損した。
走り出そうとする妹を押し留めながら、児童コーナーに歩いていく。本棚の前に立つと本を探しに来たはずが、妹はその場で読み出してしまう。
みんなよくこんな日に来るな、外、寒すぎません?夏に来たときも腕いっぱいに本抱えてる人とか居たなぁ、どうでもいいけど。......暇だな。仕方ない、手伝うか。
「どんな本探してんの?」
「あ、おねぇちゃん! あのねあのね、これちがうけど、いろんな色を図工でしらべてるの!」
「分かった。探してくるから静かにね」
「はーい!!!」
もう静かではない気もするが、そこはご愛嬌。
探そうとして見渡すと、人が見えた。
あの人、来た時もあの本読んでたような......って色見本じゃん。ここにあるのか。あ、置いた。じゃあ、それ持ってくか。
本を見せてやろうと妹の所に戻ると、後ろから声が聞こえた。
「やあ、こんにちは。僕のお手伝いをしてもらおうじゃないか」
え、何だ急に。
反射的に振り返って、後悔する私。そこには、真っ黒いドレスに身を包んだ妖しげな女の人が立っていた。
てか、どこから出てきたんだよ。こんな服装のヤツ見逃さないだろ。
「お嬢さん、君達のことだよ☆」
ウィンクとか今時するやついるんだな。って、違う違う。やばい、完全にロックオンされてる。はー、めんどくさ、うん、テキトーに返そう。
「え、嫌です」
「そんなこと言わないの〜」
「何で手伝わなきゃいけないんですか?」
「それはね、ほら、ねえ?」
「はいはい、すいません、訊いたこっちが馬鹿でした」
「っていうか、なんで驚いてくれないんだー! もっとこう、なかったのか?ほらそこのおちびさんみたいに、なぁ?」
ニコッと笑顔を向けられた妹は目を見開いたまま硬直している。私は彼女と妹との間に入り込む。
「あー、はーい、すんません。やべーヤツだしスルーしたほうが良いかなと」
「ひどいなぁ、やべーヤツじゃなくて図書館の魔女だよ☆」
ひどくないだろ、なんだよ図書館の魔女って、絶対にやべーヤツじゃん。
「もし僕が悪い人だったら、逆ギレとかされるかもしれないから、そんなこと言っちゃだめだよ」
「そん時はそん時」
「意外と怖いもの知らずだな、君は」
あ、しまった。
会話していた事に気づき、早く帰ろうと、フリーズしてる妹の手を取る。
「おいおい、待ってくれよ。僕のお手伝いをしてもらわないと」
「は? いい加減にしてください」
流石にイラッとして強く言ってしまう。
「え、だって、だめなのかぁ......?」
うっ、泣いてる? 図書館で大声とか目立つし、勘弁して。めんどくさ。
「はぁ......じゃあ、空を飛ぶとか、人を操るとか、なんか魔女っぽい事してできたら、手伝ってあげますよ」
できる訳ないだろと思い、テキトーなことを言って踵を返そうとし............動けない、だと!?!?
「ふっふーん、どうだ!」
胸張ってドヤ顔してるけど、やばくない?? あと、さっきの涙は何だ!
「あ、同情してくれてた?」
してねーよ、てか、心読むな。
「だって、やってって言ったのそっちだよ?」
「おねえちゃん、だいじょうぶ......?」
「今ね、魔法でお姉ちゃんを動けなくさせたんだよ〜」
「まじょさん!? すごおぉーい!!」
妹は大はしゃぎ。
おう、君は動けるのね。
「図書館では静かにね、おちびさん♪」
「はーい!」
めんどくさい事になったなー
「ほらほら、全部聞こえてるよ。そんな事言わないの......!」
めんどくさ。
「言わないの! あ、約束守ってくれるよね......?」
「......仕方ない、のか?」
「お手伝いするー!!」
「ほらほら~お姉ちゃんもするよね?」
「......はぁ、分かりましたよ。了承しないと動けないんでしょ」
「よくお分かりで~」
ニコニコしてるけど、かなり恐ろしいやつだ......。
考え事をしている間に、二人は図書館から出ていってしまう。
・・・・・・
「どこまでついて来るんですか」
「もちろん、お家まで♪」
「え」
「まじょさんお家くるの??」
妹よ、目をキラキラさせながら言うんじゃない。
「そうだよ〜」
「やったぁー!」
ハイタッチまでしてるし。来た所で母さんに止められるか。
「お母さんは、魔法で何とかするよ〜」
「だから、心読むな。......え、まじか、めんどくさ」
「仕方ない、諦めなさい」
ニヤニヤしてる彼女の表情にイラッとしない人は居ないのではないか。
「あっ、おねえちゃん、みてみてー!!」
妹がピンクとオレンジが混ざった様な夕暮れを差して言う。見ると光るものが見えた。
「ふむふむ、あれはUFOだね」
また、変な事を言ってる。
「本当だよ!」
もう、勝手にしてくれ。
斯くして、私たちは自称・図書館の魔女の手伝いをすることになってしまったのだ。
はぁ、めんどくさ。