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1-②『オムニバスってなんやねん ~爆発編~』 三弐肆窮助/作

 休日の暇を持て余していたので、どうせならと思って図書館を目指したのが大体二十分前。
 日曜日の午前に人通りの少ない閑散とした住宅街を歩くのも、よくよく考えれば久しぶりのことだな、とどこか新鮮な雰囲気を感じていたのも束の間。ちょうど今、俺は今目の前で起きている珍妙な光景についてどのように説明したものかと考えあぐねていたところだ。

「......なァにコレ」

 わざとではない。あまりにの無い出来事に声が余計に上擦っているだけだ。
 大袈裟な、とでも考えているのだろう。でも君は未だかつてこんな経験をしたことがあるだろうか? 

 道を歩いていたら遥か上空からUFOが降ってくるなんて。

 冗談じゃない。俺はただ図書館に足を運んでいた無辜の高校生だ。小学生向けのギャグマンガの主人公に転生した覚えは無いし、そもそも現実と二次元の区別くらいつけてほしい。ここは現実だ。(※違う)
 取り敢えず俺はどうすればいいのだろう。逃げるか。それとも誰かに知らせるか。
 知らせるとすれば誰に。警察? 親か? ......いや親に言ったところで頭がおかしくなったと思われて終わりだ。
 面倒な事になりそうなので警察にはあまり関わりたくない。......学会にでも発表するか。
 脳内の半分以上の思考回路を停止させた俺は、ポケットから文明の利器を取り出し、カメラを起動する。
 普段写真なんてあまり撮らないのだが、流石に今回は俺の中にわずかに流れる現代人の血が騒いだ。
 ぎこちない手つきでシャッターを押す。少しボケたが一応姿は捉えたので、満足してスマホを下ろした。その時だった。

「アンノ―、スンマセン。ココッテ、メーオーセーデアッテマスデスカ?」
「ぎぇっ!?」

 目の前に、全身銀塗りで目は黒い、いかにも全身で「私、宇宙人です」と言っている輩が現れた。
 一瞬の思考時間も無かった。俺は即座に回れ右、そのまま全力猛ダッシュをかました。

「チョマ、マテエクダサーイ!」

 何故か宇宙人も付いてくる。その後一時間の間、俺は宇宙人との壮絶な鬼ごっこを繰り広げ、最終的に強風に飛ばされて木に引っかかっていた宇宙人を見つけたところで俺は宇宙人の話を聞くことになった。
 宇宙人の話を要約すると、つまりはこういうことだった。

「宇宙旅行で冥王星に行こうとしたら、地図を読み違えて月に着陸しようと思ったら失敗して地球に墜落した......と。やめちまえ宇宙旅行」
「モウデキマセンケドネ......」

 UFOの上に正座する宇宙人。頭が高い、と言ってやりたいところだが相手は宇宙人。地球の常識が通用しない場合もあるし、わざわざ面倒なのでほっとくことにした。
 それに冥王星だなんて、月よりも魅力のなさそうな星によくもまあ行こうとしたもんだ。ちなみに出身星(?)はシリウスだそう。......恒星じゃねえか。

「とにかく、ここじゃ人の目に付きすぎる。UFOだけでも隠せないのか?」
「アッ、ソノテンニツイテハゴシンパイナク。ソノウチキエマスノデ」

 UFOは都合に優しい仕様だった。

「そうか、じゃあ俺はこの後予定があるから」
「マテエクダサイ!」

 再び宇宙人に呼び止められる。宇宙人は活舌的に「待ってください」と言えないのだろうか。

「なあ、その喋り方どうにかならないのか? 読みづらいんだけど」
「シヨウデスノデ」
「メタいわ」
「オタガイサマデス」

 どうやら直すことはできないらしい。呼び止められた後、宇宙人は俺の腕を掴んでいた。正直気持ち悪い。

「なに?」
「ハナシヲキイテクレタオレイニ、アナタノイマイチバンホシイモノヲアゲマス」
「え、いいよ別に」

 一応宇宙人にも礼儀というものはあるらしい。でも気持ち悪いので断っておいた。

「マアマア、ソウイワズニ」

 すると宇宙人の身体が非常に強い光で包まれた。

「な、何だ!?」

 俺は怯んで目を逸らしてしまう。しまったこの隙に宇宙人が攻撃を仕掛けてきたりしたら......!
 身の危険を感じて俺はさっと目を見開く。

「なん......だこれ」

 そして俺は戦慄した。
 俺が目を開けた先にあったもの。それは......

「どうですか? この恰好。可愛いです?」

 まるで二次元から出てきたかのような圧倒的美少女であった。強いて言えばどこぞのニャルラトホテプに似ていた。

「う、宇宙人は⁉」
「もう、何言ってるんですか。目の前にいるじゃないですか」
「は? お前が宇宙人?」

 確かに周りには俺とこの子以外に人影は無い。しかしこんなことが信じられるだろうか? なぜならここは現実だ。(違う、二回目)

「私が貴方のお嫁さんになってあげます」
「は? 嫌なんだけど。気持ち悪いし」

 宇宙人がうつけたことをぬかしやがるので俺はそれを一蹴する。彼女なんて居たことないけど宇宙人が嫁だなんて絶対にやだ。少なくともご近所の間で笑いものになる。

「なんでですか困ります!? 私UFOが壊れてこのままじゃ宇宙に帰れないんですよ!?」
「知らん、変幻自在のその恰好で仕事探して一生地球で暮らせ! あと自分の乗り物UFOって言うなよ!」

 少なくとも未確認では無かろう。
 白昼の住宅街、ご近所迷惑なんて全く考えもせずに宇宙人と口論すること数分。
 互いに疲れが見え始めた頃に突然UFOからサイレンの様な音が鳴り始めた。

「ん? なんか鳴ってるけど」
「ああ、ご安心ください。ただの自爆装置の作動音ですから」
「あーなるほどねー、よくあるあの自爆装置ねー......ってならねえわこのボケ‼ なんで自爆装置が作動すんだよってか何でそんなものがあんだよ‼」
「そろそろ尺が足りなくなってきたのでオチをつけるために勝手に作動するオプション付きなんです。結構高かったんですよ?」

 宇宙人がそういう間にもサイレンは速度を増し、本体はなんか光り始めている。
 そして光は辺り一帯を包み込み......

「宇宙人お前絶対許さんからなーーーーーー‼」

 ドーン、とありきたりな爆発音を立てて爆発した。

「......きろ......起きろ......」

 爆発の直後、誰かが俺の髪の毛を引っ張る。

「......ん、宇宙人?」
「誰が宇宙人だこのボケナスがぁ‼」
「痛ぇ‼」

 グーで殴られた。

「いててて......ここは? あれ、姉ちゃん?」

 そこに居たのは宇宙人でも二次元からの美少女(?)でもなかった。

「なんでここに?」
「とぼけんな、お前が図書館の閉館時間まで寝てるから職員さんに呼び出されたんだよ」

 ああ、なるほど。さっきまでの記憶は全て......

「結局夢オチだったわけか......爆破オチじゃなくてよかった」
「全然よくないからな? 家帰ったら覚悟しとけ」

 宇宙人に追いかけられ、爆発し、最後は姉からの折檻が待っている。レアケースかつ散々な一日だった。できればもう二度と、こんな日は過ごしたくないものだ。

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