『拝啓、おふくろ』
- 光文社
- 2022.2
関西にいた子どもの頃、うちの毎日の朝食時にはラジオが鳴っていました。中学生になったある日の朝、ラジオから聞きなれない若々しい声が聞こえてきました。
「おはようパーソナリティ 道上洋三です」(おはパソ)大阪の朝日放送ラジオの人気長寿番組の始まりでした。パーソナリティの道上洋三さんとアシスタントのトークで番組が進行し、ニュース紹介や季節の話題、特集、リスナーからのおたよりなどのコーナーで番組が構成されていました。そして、おはパソの最大の特徴は、阪神タイガース愛にあふれる偏向放送。タイガースが勝利した翌日は、試合実況のダイジェストに続いて、道上さんによる六甲おろしの大熱唱。お祭り騒ぎです。
そんな道上さんが執筆した「拝啓、おふくろ」を紹介します。母・チヨネさんとのことを幼少期から綴った本で、背景はバリバリの「昭和」です。先生や周りの大人たちとのあたたかいエピソードがあふれる一方で、母とは気持ちがすれ違うことばかり。「おふくろ 面と向かって言わないとわからないよ」「『ありがとう。しんどかったな』生きている間に言えたらよかった」という道上さんのふたつの言葉がふたりの関係をよく表していると思います。とても切なく、寂しい感じがします。道上さんもずっとそう思い続けていたのではないでしょうか。
道上さんのおはパソは2022年に45年の歴史の幕を閉じました。道上さんが病を得てしまったためです。現在も言語や身体のリハビリに励んでいらっしゃるとのこと。朝からテンポよくしゃべる道上さんの元気なお声を、再びラジオで聞きたいと心から望んでいます。道上さんがリハビリを終え、元気にしゃべれるようになることを祈願して、遠く離れた東京の空の下からエールを送ります。
「我が阪神タイガースと、道上さんのおはパソは、永遠に不滅です!」(k)