『マルドゥック・アノニマス5』
- 早川書房
- 2020.5
最近読み進めているのが、何年か読み続けているシリーズものばかりで、紹介するといってもなかなかピンとこないまま、「ええいままよ」と、書き散らしました。(正直なところ面白いから読み進めていて、自分にとって面白いことが当たり前になっているので、あらためて「どこがよいのか?」を考えてもよくわからないままでした)
だいぶとっちらかっていますが、その点はご容赦ください。
今回紹介するのは、『マルドゥック・アノニマス5』(冲方丁/著 ハヤカワ文庫)です。紹介する今作は、マルドゥック・シリーズの最新刊であり、『マルドゥック・スクランブル』『マルドゥック・ヴェロシティ』から続く、マルドゥック市を舞台とした一つの物語の完結編の5巻です。
冲方さんの著作には、最近では時代小説を多く見かけますが、今作はSF作品です。
物語の舞台となる架空都市「マルドゥック市(シティ)」は工業都市で、カジノなど華やいだ部分がある一方で、貧富の格差が大きくスラム街のような暗い一面ももつ都市です。
人体改造技術が当たり前にある世界で、軍に開発された万能兵器のネズミ、ウフコックが今作の主人公です。彼は、事件当時者からの委任を受け事件の捜査・解決を担う委任事件担当捜査官として、ある事件の証人の保護を任されます。証人保護に向かう際、謎の人物ハンターに率いられた集団クウィンテットと衝突します。事件の捜査を進め、解決をするため、事件の関係者を洗い出すべく「リストメーカー」として、ウフコックはクウィンテットに潜入します。
1~3巻までは、希望を見出すためにあがく展開がおおく、クウィンテットが"強固"に勢力図を書き換えていく様子を眺め続けることになるのがつらいところではありました。とくに、組織の全容をつかむまで何もできないままその行為を眺めるしかないウフコックの焦燥感や悲壮感、そして孤独感が、読んでいて堪えました。
4巻(厳密には3巻のラスト)で、着実に積み上げられてきた絶望のなかに希望がみえ、読んでいる間張りつめていたものが少しだけですが、ほどけたように感じました。
舞台はあくまでも一つの街なのですが、個人だけでなく、組織の関係性の変化に伴う勢力の変化で話が進行するため、物語がすごく広がりをもっているように思いますし、魅力的だと感じる点です。また、勢力のパワーバランスが単純な規模や武力によるものだけでなく、交渉など「駆け引き」により変化していく様も魅力の一つです。「危険で恐ろしいとか、見境もなく凶暴だと思われたら駄目だ。(中略)ちゃんと話し合いができて、しかも手を出すと厄介だと思わせなきゃいけない」(4巻9ページ)というセリフが印象的で、「駆け引き」という点を表しているように思います。
時系列としては『マルドゥック・ヴェロシティ』→『マルドゥック・スクランブル』→『マルドゥック・アノニマス』の順なのですが、『マルドゥック・ヴェロシティ』での出来事も含め、物語が少しずつ収束していくのは感動的ですらあります。
作品を語るには力不足感も否めませんし、完結してない作品ではありますが、少しでも興味をもっていただければ幸いです。
私は来年中には6巻が発売してほしいという期待と、今後の展開への不安をともに抱きながら、年を越したいと思います。(M)