2020年に読んでベストだと思った本、ということですが、読むことで救われる気がしたこと、私がこだまさんという作家さんがとても好きだと思ったこと、という意味で、今年は『いまだ、おしまいの地』が一番心に残る作品になりました。
本作は、こだまさんの私小説『夫のちんぽが入らない』、エッセイ集『ここは、おしまいの地』に続く3作目のエッセイ集です。
主婦をしながら作家活動をしていることを家族にも明かしていないこだまさんは、夫の転勤先の風景を「おしまいの地」、とかたりながら自身にまつわる日常を綴っていきます。一つ一つのエピソードがシュールなユーモアにあふれ、文体の間で笑いが起きるような表現がちりばめられています。大喜利をみているような独特な筆致から、すらすら読み進みやすいのですが、全体的には病気の辛さに苛まれていたり、解消できない過去を引きずり悲しみにくれていたり、悩んでいる様子ばかりが綴られています。
こだまさんは、現在進行形で、「うまくいかないことではじまった」自分や、幼いころから今まで持ってきた人間特性、「ちゃんと生きている」家族のまぶしさ、できることならなかったことにしたい過去と向き合っています。それも、自分がより辛い思いをするような、自分の行動で過去の辛さをかえって増幅するような向き合い方をしているように思えます。私は、過去から今までを切り離さない視点で綴られるこだまさんの日常を教えてもらうことで、悲しい気持ちや解消しきれない澱みを腹に感じながら生活している自分を肯定してもらえた気持ちになりました。日常を描く、ということは過去とは切り離しえないものなんだろうなと思います。
特に好きな場面は「郷愁の回収」に出かける場面。自分も、回収したいものがたくさんありながら怖くてできないままでいます。大切なことは個人的なこと。はたから見たら些細に見えるじゃないか、といわれそうな個人的なことに全力で悩み過ごすこだまさんから、自分もそれでいいんじゃないか、となんとなく思いました。前2作もあわせて、おすすめさせていただきます。(S)