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図書館員の本箱 再開第6回

『白銀の墟 玄の月(第一巻)』

小野 不由美/著
新潮社
2019.10

 十二国記シリーズに出会ったのは、私が高校生の頃でした。姉から「あんたコレ絶対好きだよ」と、本編第一作の『月の影 影の海』をオススメされ、半信半疑で読み始めたのがきっかけです。軽く読むつもりで手を出しましたが、序盤から主人公の女の子に対する仕打ちが酷すぎて度肝を抜かれ、読めば読むほど「果たして、この主人公は生き残ることができるのか」と続きが気になり、一気に読み進めることになりました。

 第一作の主人公「陽子」は、ある日突然異世界に飛ばされ、全く見知らぬ荒廃した土地で、生死がかかった旅をする羽目になります。食料や服、寝床等をすべて自力で手に入れなければならないという最悪の状況の中で、陽子にありとあらゆる人間の悪意が襲い掛かります。

 私が十二国記シリーズで素晴らしいと思うところは、この"人間の悪意"や"負の感情"を、緻密に描いているところです。食料を得るために法を犯す人間、金儲けするために人の良さそうな顔で近づいてくるペテン師等、多種多様な人の醜さや愚かしさが、シリーズのどの作品でもギュウギュウに詰まっています。だからこそ、必死に生きようと藻掻く主人公の逞しさや心の成長が、より際立って魅力的に感じるのではないかと、個人的に思っています。十二国記シリーズは、作品によって主人公が変わり、それぞれが大変魅力的なのですが、私は第一作の主人公「陽子」が、登場人物の中で一番好きです。

『白銀の墟 玄の月』は、『魔性の子』・『月の影 影の海』から始まる十二国記シリーズの18年ぶりの書下ろし新作になります。ファン待望の新作です。これまでの作品の中で謎とされていた部分が、今作で明らかになったり、これからどうなるのか気になっていたところが描かれていたりと、非常に濃厚な内容になっています。ネタバレになるので、内容に深くは触れませんが、今作でも、どん底から這い上がる人間の逞しさが、丁寧に描かれています。私は読了後、「やっぱり十二国記は最高だな」と思いました。

 ファンタジーが好きな方、長編シリーズに挑戦してみたい方、主人公の過酷さに度肝を抜かれてみたい方は、ぜひぜひ読んでみてください。(M)

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